ペン入れをしていると思い出すこと

お疲れ様です。
梅の花が少しずつ咲き始めましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
私は先日から始めたペン入れ作業を黙々と行っております。

2日に一度のペースで日記を更新したいと思うのですが、作画作業にはいるとずっとその作業をしてしまうため、ついついタイミングを逃しがちになります。
日記を書くのを習慣づけしたい…。


さて、黙々とペン入れをしていると、ふと思い出すことがあります。

それは私が初めてアシスタントに行ったときのことです。

私はそれまで漫画をほとんど描いたことがありませんでした。
本当に恥ずかしい話ですが、カラーイラストばかり描いていて、漫画は3つほどしか完成させたことがありませんでした。

・・・にも関わらず、当時の私はそれなりに漫画を描いている気でいたのです。
実際はイラストしか描いてこなかったのに、なぜかそれなりに描けるような気がしていたのです。

そんな勘違いヤローはある日、とある先生のお宅へアシスタントをしに行ったのでした。

とりあえずお試しで、ということで、先生は「歩道橋を描いてください」と私に原稿用紙を渡しました。
私は緊張していました。歩道橋など描いたことがなかったのです。
先生から資料写真を渡され、必死にその写真を参考に下書きをしました。
先生にチェックをもらい、ペン入れの作業に入りました。
そこまででたぶん3時間くらいかかっていたような気がします。下描きで3時間です。
内心焦りました。
私は写真を見ながら描いていましたが、その写真と原稿に描いた下描きがゲシュタルト崩壊し始めていたのです。

しかし下描きだけで帰るわけにはいきません。まだなにも完成していないのです。
ペン入れをし、ベタを塗り、トーンを貼って仕上げるまでがお仕事です。

私は混乱した頭で、ペン先にインクをつけ、線をなぞり始めました。
手すりの長い棒、階段・・・
人が落ちない為の柵の部分を描き始めたころで、集中力の底が見え始めました。
柵は四角い棒が何本も連なってできています。
その棒は厚みのあるものですので、奥行きを意識して何本も描かなくてはなりません。
隣り合った棒の間隔、棒それぞれの奥行きを意識して線を引く作業は、ペンのストローク回数でいえば50回などでおさまるはずもなく…。

「えっ、50回?そんなもんで音を上げるの?」

そう思う方もいるかもしれません。
ですが、当時の私は50回のストロークで描ける程度の建物しか描いたことがありませんでした。

そう、私は線をまったく引いたことが無かったのです。

歩道橋を描きながら、永遠に描き終わらないんじゃないだろうか…と内心途方にくれました。
原稿用紙を三分の一に割った大きさのコマでした。
やや大きい程度のコマすら完成させる気力がなかったのです。

絵を描くことが好きだったのに、線を引き続ける気力が無いなんてことを
この時まで私は気づいていませんでした。

ハッとしました。

漫画というのは私が思っていた以上に沢山の線でできていたのです。

――そんなことがあり、それからしばらく先生のもとでアシスタントとしてお世話になりました。
先生はめちゃくちゃ沢山の線を引く方で、

こんなカケアミを丸ペンで「サササ~」と描かれる方でした。
先生の画風に合わせるように私もこのカケアミを沢山描かせてもらいました。

ある日、マンガ好きの友人と集まってらくがきをしていたら、友人に「髪の毛の線と線がピッタリくっつけられるのすごいね」と言われて、たまたまじゃないか?と思っていたところ

「何本も線を引いてきたからですよね」

と言われた時は「うおお…」と思いました。
すごく嬉しかったです。
そんな風に言ってくれる友人にも感動しました。

線を沢山引くきっかけをくれた先生と、線を沢山引いたからだと教えてくれた友人に感謝です。

その数年後、線を引きまくって色々と誤魔化す癖がついたのはまた別のお話です。
最近の目標は見やすい画面作りです。

それでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
よい夜をお過ごしください。